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時の翼A 投稿者:ぴぃ 投稿日:1998年09月05日 20時45分
 妹の死がどれほどものだったのか。
少なくとも僕と母の心に大きな穴を開けた。
友達や親戚がいない母だったので一美の葬式は、淋しいものとなった。
葬式には、一美の学校の校長と担任、そして数人の女生徒が葬式に顔を見せたぐらいで、ほとんど僕と
母だけだった。
妹の死は、母を悲しみと言う呪縛にかけてしまった。
葬式が済んだ後でも母は、その悲しみを背負いつづけた。
その為に生気を失ってしまった母を見る事に僕は、耐える事などできなかった。
何度見ても目をそらしたくなる母の衰弱した顔。
僕は、そんな母の顔を毎日見たくは無い。だから、母を元気つけて励ます事を考えた。
それは、母にとって唯一の家族である僕の役目だと思ったからだ。
そして、妹の死から49日たち一月たち半年たちじょじょではあるが母が以前の姿に戻っていく事を感じ
ていた。

妹の一美が死んで一年後・・・・・・。
僕は、高校3年になり大学受験のために忙しく勉強の毎日だった。
今日は、妹の命日だと言う事だけで僕は、高校の授業など受ける気になれなかった。
僕は、気分が乗らないとたまに学校を抜け出したりする。
そして、よく県立図書館に行っては、好きな本を読みあさる。
今日もそんな事で午前中だと言うのに図書館に足を運んでいたのだ。
大きくて広い本棚を僕は、眺めて面白そうな本、僕の興味をそそるような本を探していた。
そして、ふっと目に止まった本を手に取って僕は、表紙の題目を読んでみた。
「THE TIME WING?・・・・時の翼?」
自分でも安易な直訳だと思いながらも「時の翼」と声なって出た。
その本は、分厚くそして何故か異様に重い。
とりあえず、表紙をめくってみるとちゃんと日本語で書かれた本であった。
印刷されたのは、かなり古い様で少し黄色くページが変色していた。
この本に少し興味が沸いたので書かれた内容を読むこともなくそれを脇に抱えて受付へ持って行った。
「あの・・・この本・・借りて行きます。」
僕は、受付の女性にそう言って図書カードを手渡した。
「・・・あら?・・この本・・・ふーん・・貴方が借りるの?この本がどんな本なのか理解している?」
受付の女性が少し不思議そうにその本と僕の顔を覗きこんだ。
その受付嬢は、若く20歳ぐらいに見える。
そして、興味があるように顔に笑みを浮かべ僕の返答をまっていた。
「え?・・・ただ、なんとなく面白そうだなって思っただけで・・・」
「う〜ん、まっ良いか・・・・貸出し期間は、1週間ね。」
そう言って彼女は、僕の図書カードに判をつく。
その本を持って行こうとすると彼女が僕を呼び止めた。
「ねぇ、私もうすぐここのアルバイト終わりの時間だから少し待っていて欲しいの。」
「え?」
「話があるのよ。その本について・・・・」
彼女は、一方的にそう言うとニッコリと僕の笑みを向けた。
つづく