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青い満月が南の空に輝き、しっとりとした闇が街を包み込む。
乾いた風が街中を駆け抜け、土煙を巻き上げた。
静かな夜、月明かりが不気味に街を照らしている。
「いつもより大きく見える満月がまるで命あるものに感じる」
一人の少女が小さな部屋の中から窓の外に映る月を眺めながてそう呟いた。
その少女が月に向ける眼差しは、感動とか言ったものではなく、憎しみや悲しみを含んでいた。
少女は、ふと月から目をそらして、部屋の角にあるひび割れた鏡に目を移した。
「どうして?あの月がなかったら・・・私は、普通の人間でいられたのに!」
少女は、憎しみをぶちまける様に叫んだ。
そして、窓を開き、おもむろに外へ身を乗り出した。
少女の部屋は、三階。
落ちたらひとたまりも無い高さだ。
だが、次の瞬間には、窓から飛び出して地面に降り立った。
怪我一つもない。
まるで、階段を一段軽く飛び降りた様にむどうさに3階の窓から飛び降りたのだ。
そして、2メートルはある塀を軽々と助走もつけずに飛び越えた。
少女は、街中へ何かを求めるように消えていくのだった。
次の日の朝。
朝だと言うのに強い日だしが町を照らしつけていた。
うっすらとしたもやが立ち昇りその仲を自転車に乗った少年が駆け抜けていく。
街中にある小さな公園で人だかりが出来ていた。
公園の入り口には、黄色いロープが張られ、制服を着た警官が二人見張りに立っている。
入り口の前には人が集まって公園の中を覗き見ようと必死になっていた。
ブランコの下で若い男があお向けに倒れて死んでいる。
その一報が警察に届いたのは、朝の5時ごろ。
眠い目を擦って根津宗次郎が公園に着いた時には、朝日が死体を照らしつけていた。
捜査課の根津宗次郎は、死体を前にして大きなあくびをした。
そして、ポケットに手を入れるとタバコを取り出して口にくわえた。
根津がタバコに火をつけると、若い検死官の青年がやってきた。
「根津さん、該者の死亡推定時刻は、午前3時頃。死因は、首筋の頚動脈からの出血多量死
です。頚動脈を破るように動物の牙を突き立てたような傷があります。」
「ああ、またか・・・。」
根津は、タバコをふかして険しい顔を作った。
「はい、今年に入って9人目ですね。」
「同じ手口だ。同一犯の犯行と見て良い!」
根津がそう言うと検死官の青年がブランコの下で転がってる死体に目をやった。
「いったい・・・誰がこんな事を・・・まるで吸血鬼だ!」
「おとぎばなしの吸血鬼か?笑わせるなよ!そんなのいやしない!おそらく、吸血鬼信者の
精神異常者が犯人だぜ!」
根津がそう言うと青年は、少し困ったような顔をした。
「精神異常者ですか・・・・それで済めば良いのですが・・・僕は、少しいやな予感がする
んです。ただの連続殺人事件で終わらない気がね!」
「心配するなよ!俺が直ぐに犯人を捕まえてやるぜ!それより、該者は、検死に回す。何か
わかったら連絡くれよ!」
「わかってますよ!」
青年は、そう言って根津の前から去っていった。
根津は、少し悲しそうな瞳を死体の方へ向けてタバコの煙を深く吸い込んだ。