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日が沈み夕方になった頃。
火野明は、編集部のオフィスに戻ってきた。
すでに定時は、過ぎておりいまだに残業を続けている同僚たちを尻目に火野は、帰り支度を行っていた。
火野の担当している吸血鬼殺人事件の特集は、二週間に一度週刊ターズデイに掲載される。
週一で掲載される記事を書かないといけない同僚にくらべて、火野は気楽なものである。
火野は、出勤掲示板に帰宅表示である赤いネームプレートを表示した。
火野が帰宅しようと振り向いた時、あの女編集長に呼び止められた。
「火野!言ってあったろ?今日は、私に付き合いな!」
女編集長、長谷川裕子は、なかば強引に火野明の腕を掴みオフィスを出て行くのだった。
火野が長谷川裕子に連れてこられたのは、シックな雰囲気のショット・バーだった。
火野は、また彼女の口煩いせっきょうが始まるのかと思うと気が滅入ってきた。
そして、カクテルをあおりながら長谷川裕子のせっきょうが始まる。
「火野!!私の言ってる事、わかってんの?私達は、ただのスクープ屋!深入りは、するなって
あれほど・・・・深入りしすぎて・・・命落とした奴だっているのよ!命が欲しかったら、私の
言ってる事をキッチリ守りなさい!!」
何度となく繰り返される長谷川祐子のせっきょう。
火野は、黙って2時間もの間耐え抜いたのだ。
火野にとっても編集長のせっきょうに2時間も耐えたのは、新記録であり、この記録更新に自分
自身を誉めてやりたい心境だった。
そして、最後に長谷川祐子は、落ち着いた声で火野明に語りだした。
「ねえ、火野!馬鹿正直者は、嫌われるんだよ。大嘘つき者は、慕われるわ!」
「・・・・・」
「私はね、嘘をつくのが嫌だった。なんだか、仕事や生活に妥協してるみたいで嘘をつくのが
嫌だった。あれよあれよと言う間に編集長なんてたいそうな肩書きをもらって、嘘をつけなく
なった。仕事に対して馬鹿正直者になってしまったわ。だから、会社では嫌われ者よ。昔、いっ
ぱい居た友達もそんな私から去っていたわ!」
長谷川祐子は、少し悲しそうにため息混じりにそう言った。
目の前にある新しく注文されたカクテルを長谷川祐子は、いっきに飲み干した。
「どうして、俺にそんな話しを?」
「火野!!あんた、友達少ないでしょ?」
「・・・・」
「似た者同士なのよ!あんたもわたしも!笑っちゃうわね・・・こんな話し・・・」
長谷川祐子は、そう言い終わるまもなくカウンターのテーブルに潰れて眠り始めた。
火野は、そんな編集長を見てこれからどうやって帰ろうか悩んだ。